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​遠位上腕二頭筋腱付着部炎、遠位上腕二頭筋腱炎

​✔遠位上腕二頭筋腱付着部炎、遠位上腕二頭筋腱炎とは?

上腕二頭筋(肘を曲げるときに使う筋肉)腱が付く橈骨粗面(肘の少し先端)で発生する炎症です。

遠位上腕二頭筋腱の構造

 

 上腕二頭筋腱は橈骨にある橈骨粗面に付着しています。

橈骨粗面は前腕の回内/回外運動で尺骨に接近しながら位置を変えていきます。この時、上腕二頭筋腱は尺骨にほぼ接しながら橈骨粗面とともに動きます。

 ちなみに、上腕二頭筋の作用は肘の屈だけではなく

前腕の回外筋(手のひらを上に向ける力)として作用します。

✔原因:肘を曲げるときに腱が強く引っ張られたり、前腕回内・回外運動(手のひらを上にしたり下にする運動)で隣接する尺骨とこすれて炎症を起こす病気です。手をたくさん使う人に多くみられます。

✔症状:肘のやや遠位(指に近い方)の腫れと圧痛、肘の運動痛です。肘の曲げ伸ばしや前腕回内外運動で強い痛みがでます。病院を受診してもテニス肘と言われたり、診断がつかず原因不明と言われることが多い疾患です。

✔治療

①安静:肘を安静にすることが重要です。特に前腕の回内外運動を控えると症状が改善してきます。

②注射:症状が強い時には注射をすることがありますが神経が密集している部位であり注射ができないこともあります。

③手術:日常生活動作に困難な場合は手術を行います。

回内:手のひらを下に向ける

​回外:手のひらを上に向ける

​回内位、中間位、回外位での尺骨と遠位上腕二頭筋腱の位置関係を見てみましょう

回内位でも遠位上腕二頭筋腱が橈骨と尺骨の間に挟まれています。

中間位では橈骨粗面と遠位上腕二頭筋腱が尺骨と擦れる位置になってきました。

回外位では橈骨粗面が上を向いて遠位上腕二頭筋腱が尺骨から遠い位置にあります

✔鑑別診断:似たような症状を呈する疾患としてはテニス肘(上腕骨外側上顆炎)と遠位上腕二頭筋腱断裂があります。遠位上腕二頭筋腱断裂は本疾患が原因の一つと考えられております。疼痛が続く場合は早めに肘の専門家に診てもらいましょう。

以下、さらに詳しく

発生のメカニズム

 遠位上腕二頭筋腱は橈骨粗面に付着します。前腕の回内外運動は尺骨の周りを橈骨が右左に移動して行われます。橈骨粗面は回外位では前腕掌側にありますが、回内する際に尺骨との狭い隙間を通り抜け背側に達します。​この時、橈骨粗面に付着している遠位上腕二頭筋腱や肥大化した橈骨粗面(骨)が尺骨とこすれて炎症を引き起こします。このように腱と骨(遠位上腕二頭筋腱と尺骨)がこすれる場合と、骨同士(肥大化した橈骨粗面と尺骨)がこすれる場合があります。

診断

1.腫脹:肘の正中やや遠位の腫れ

2.圧痛:この場所の圧痛

3.運動痛:前腕回内外運動での疼痛

4.レントゲン:橈骨粗面の肥大

5.MRI:T2で橈骨粗面および腱周囲の高輝度変化

赤丸部分の腫脹と圧痛

​腫脹はごく軽度のことがあるため見つかり難い。中には全く腫れていないものもあります。

レントゲン 正面

橈骨粗面が大きく膨らんでいます

レントゲン 側面

橈骨粗面が大きく膨らんで前方(掌側)に突出しています

CT 

おなじ患者さんのCT像です。

​橈骨粗面の骨棘増殖に加え尺骨にも骨棘が増殖していることが判ります。

CT

尺骨の骨棘を横から見ました

​前腕の回内、回外運動で骨に刺激が加わり骨棘ができました。

治療

1、安静

 特に回内外運動の安静が重要です。特に骨に変形がない場合は安静で改善することが多いので装具等で安静を保ちます。

2、注射

 炎症が起こっている部位に注射(ステロイド剤)を注射し炎症の沈静化を促します。

注意点1、神経損傷

 橈骨粗面部に掌側から注射をすると橈骨神経を損傷する危険性があります。

 背側からの注射が安全で有効でした。

注意点2、腱断裂

何度もステロイドを注射すると腱が断裂する可能性があります。

3、手術

 上記1.2でも疼痛が取れない場合、特に骨棘が形成されている場合は骨棘を切除すると症状が改善します。

切除した骨棘(橈骨粗面に生じた)

 

​本疾患と似た症状が出現する外傷があります。

 遠位上腕二頭筋腱断裂は橈骨粗面付着部で腱が切れる外傷です。腱が切れる原因としては遠位上腕二頭筋腱炎により脆弱性がある腱が、肘屈曲位から他動で肘の伸展を強制されたときに起こるといわれています。

 

近々この疾患についても詳しく解説します。

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