母指CM関節症
親指の付け根が痛い!!
母指CM関節症とは?
✔親指の付け根の関節(CM関節)が壊れる病気です。

日本手外科学会 手外科シリーズより
✔症状:親指の付け根の痛みと変形、動きの悪化。親指を使うたびに痛みがでるので日常生活に障害が出ます。
✔治療は以下の順で行います。
1)安静:親指の安静が重要です。
2)装具:大変有効な場合もあります。
3)注射:ステロイド剤の関節内注射は一定期間有効です。
4)手術:手術を進めるのは以下の場合
#装具や注射でも改善しない場合
# 親指の変形が強い場合

力を入れて物を握ったり 瓶のふたを開け閉めするときに強い痛みが出ます。症状が進むと箸の使用で痛みを訴える方がいらっしゃいます
日本手外科学会 手外科シリーズより
母指CM関節症 以下詳細に説明
原因
関節が緩い
母指CM関節がもともと緩いばあいに壊れやすい
使いすぎ
使いすぎや加齢で関節軟骨がすり減り、骨棘が形成されて壊れてくる場合
体質?
へバーデン結節やブシャール結節などの多発関節症の方にも多い
外傷後の変形
脱臼や骨折など外傷が原因の場合もあります

母指CM関節が脱臼しかかっている状態です。CM関節が屈曲しその代償としてMP関節が過伸展しています。
母指CM関節症のEaton分類
stage1:関節形態正常、関節裂隙の軽度開大
stage2:関節裂隙の軽度狭小化、2mm以下の関節内遊離体
stage3:関節の著明な破壊(骨硬化、嚢胞形成)、2mm以上の関節内遊離体
stage4:stage3に加えて舟状大菱形骨関節の変形性関節症を伴う
Eaton,RG:Ligament reconstruction for the painful thumb carpo-metacarpal joint:
A long term assessment.J Hand Surg 9A:692-699,1984
症状
親指の付け根の痛みと変形、運動制限が主な症状です。
痛み:物をつまむときや瓶のふたを開けるとき、ペットボトルのキャップを
あけるときなど、親指に力を入れると痛みがでます。
手のひらを机などにつくと強い痛みが出ることがあります。
変形:進行すると疼痛だけでなく、親指がZ状に変形してきます。
運動制限:CM関節の可動域(動く範囲)が狭くなります。
★CM関節の正常と異常(関節症)の違い

✔正常の関節(図左)
中手骨の中心が大菱形骨の中心とほぼ一致します。
✔CM関節症(図右)
1)関節の隙間が狭くなる(軟骨の減少)
2)骨棘形成
3)亜脱臼(中手骨軸が大菱形骨の中央
からずれる)

・左母指のCM関節が掌屈し、伸展が困難になっています。
・CM関節の動きを補うように、MP関節が過伸展しています。
✔X線写真 正常例と関節症例

正常例
正常の母指CM関節です。
関節のずれがなく関節裂隙(隙間)が保たれています。

関節症例
✔関節のすきま(劽隙)がなくなっています。
✔第一中手骨が横に滑って移動し亜脱臼しています。
✔大菱形骨に骨棘が形成されています。
✔徒手検査(疼痛誘発テスト)

チェーテスト
親指を内転し背側に伸展すると強い痛みが出現します。
従来のテストに比べて大変有効です。
このテストで痛みが強く出た場合は手外科医を受診してください
X線撮影法:母指CM関節症の代表的な撮影法


Bitte法 △柱に手をのせて撮影
治療:代表的な治療法を以下に記載します。
1.安静:CM関節症の治療は親指の安静が大変重要です。なるべく親指に力がかからないように仕事や運動を控えていただきます。特に大きなものを手で把持する動作で痛みが強くなります。
2.装具:装具を装着し親指の安静を図ることも有用です。作業時に装具を装着することで母指CM関節へのストレスを軽減できます。
装具は実際に使ってみなければ使い心地や不便な点が判らないので使用してレポートします。

親指を少し開いた状態で固定し、CM関節の動きを制限させます。この装具はシリコン製で水仕事にも耐えれる装具です。

布製の装具です。中にプラスチックの心棒が入っており母指を支えるようになっています。




新しいタイプの装具です
つけたまま水仕事ができるかもしれません。

指のつまみ動作も可能です。
装具がない場合は包帯でも代用できます


装具がない場合は包帯を用いて親指を固定します。
親指を開いた状態で8の字に包帯を巻いていきます。
この方法でも疼痛が軽減されます。
3.注射:疼痛が強い場合は関節内にステロイド剤を注射します。この注射で多くの場合、疼痛が軽減します。注射は確実に関節内にステロイド剤を入れることが重要です。この疾患では関節の隙間が狭くなっており針が関節内に入りにくく手技がやや難しい注射です。
一方、何度も注射すると関節破壊が急激に進んだり、周囲の腱が断裂する可能性がありますので、数回にとどめておくことが重要です。
4.手術:安静や装具治療でも改善せず、痛みが強い場合は手術を行います。
①靭帯再建術:CM関節が緩く亜脱臼になりやすく、なおかつ軟骨のすり減りや、骨棘形成が少なく、さらに骨の変形が軽い場合に行います。
メリット:病気の進行を遅らせる可能性があります
デメリット:手術適応が少ない。
病院を受診する時には病気が進行し靭帯再建術を行う時期が過ぎていることが多い。
②骨切術:第一中手骨を切り、骨の角度を変えてプレートやネジで固定する方法
✔ この手術は関節があまり壊れていない場合に行います。
✔ ずれている関節をなるべく正しい向きにします。
✔ 進行を遅らせる効果と疼痛軽減効果があると言われております。
第一中手骨の基部を楔状に切除します。

左:手術前
第一中手骨の中心軸が大菱形骨の中心から大きくずれています。
右:手術後
楔状に切除した部分を合わせてプレートで固定します。
中心軸が大菱形骨の中央を通ております。
メリット:CM関節を残すので関節が動きます。
将来、痛みが強くなった場合は他の治療法を選択できます。
デメリット:骨癒合までに平均2-3か月を要し、その間力仕事ができない。
痛みが軽減するまでに数か月を要する。
③関節固定術:CM関節を固定し痛みを改善する方法
関節固定術で関節が癒合するとCM関節の痛みはなくなります。ただしCM関節は全く動かなくなりますので親指の動きが悪くなり人によってはポケットに手を入れにくい、床に手をつきにくいなどの不便を感じます。握力が低下しにくく重労働に従事されている方に有効と言われています。

日本手外科学会パンフレットより
メリット:痛みが大幅に改善します。痛みをとるには一番良い方法です。
握力低下がすくなく、力仕事をする男性におすすめです。
デメリット:骨癒合までに平均2-3か月を要し、その間力仕事ができません。
CM関節周囲の関節が壊れている場合はこの手術は行えません
CM関節を動かなくしますので洗顔時に水がこぼれてしまう、
手のひらを平らなところにつけることができない、
ポケットに手を入れにくいなどの不便さが残ります。
④関節形成術:痛みの原因となっている骨(大菱形骨)を除去して周囲の腱を用いて第一中手骨を補強する方法
これら方法は疼痛が取れるまでに若干時間を要しますが、CM関節の動きは残りますので細かい動作を行いやすいなどの特徴があります。

日本手外科学会パンフレットより
★手術時にMP関節が30°以上過伸展している場合は、術後に過伸展が進行する場合があります。過伸展が強い場合はMP関節掌側の関節包を短縮する手術を同時に行うことがあります。
メリット:CM関節が動きます。
デメリット:移動した腱がなじむまでに平均2-3か月を要し、
その間力仕事ができない。
痛みが軽減するまでに数か月を要する。
50歳代女性 痛みのために趣味のテニスができない

写真1
この方向からの撮影では大菱形骨に骨棘があり骨硬化もありますが、CM関節の形態は比較的良好です。

写真2
向きを変えて撮影しますと第一中手骨が外側に亜脱臼していることがわかります。
この患者さんは装具と注射を組み合わせて治療を行います。装具+注射でも症状がすぐにぶり返すようでしたら手術を行います。
60歳代男性。建設業。
母指CM関節痛のために仕事に支障をきたしていました。
関節裂隙が比較的保たれているので第一中手骨矯正骨切術を行いました。

母指CM関節で第一中手骨が側方にずれています、

中手骨が内転変形し、内側の関節軟骨がすり減っています。
中手骨の基部をVの字に切除します
骨切除部を合わせ、頑丈なプレートで固定します。


側方へのずれも改善し、関節では中手骨と大菱形骨の接触面積が増えています。

術後3か月、骨癒合が得られ疼痛が大幅に軽減し元の仕事に復帰しています。
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